第四話
1.if─誠意と対話
誠意ってなんだろう。実直って何?
言葉の意味は当然理解している。けれど、その本質は、考えても僕には分かりきれない。
なぜならば。
「……と、いう訳で」
僕は多分、誠実なヒトとは正反対なやつだからだ。
女の子は大好きだ。自分で言うのもアレだけど、尽くす方だと思う。ただ、たった一人に一途にはなれない。二股も三股もかける。
本当に誠実と呼ばれるようなやつは、僕みたいに定期的に平手打ちを食わされたりしない。
きっとただ一人だけを見て、わき目を振る事なんてないんだろう。
──でも僕にはそんなの無理。自分というものをわかってる。ごめんねーと心中で謝りはすれど、心から負い目に思ったことはない。開き直ってしまってるのだから、我ながら性質が悪い。
ただ、気を持たせるようなことは言った事はないし、君だけだよなんて言って騙した事もない。誠実ではないけど、ある意味最初から最後まで正直ではあったはずだ。
だったら僕というモノの最大限の誠意の発揮の仕方というのは、こういうことではないかと思った。
「僕はきみのこと、面倒見切れないと思う」
今朝まで考え続けていたことを、目覚めたその子に濁すことなく話をした。
言葉なんか選ばず、現状を包み隠さずに。
これが僕なりの誠意だった。
うんうんと相槌を打ちながら、時折質問も入り混ぜながら。その子は静かに聞いていた。
「そうでしょうね」
聞き終わり、口を開いたその子は。予想に反して柔らかい表情を浮かべていた。
…というより、明らかに苦笑している。思っていた反応とは違いすぎて、思わず目を瞬かせた。
その子は僕の困惑には気が付いていないようで、苦笑を湛えたままその先を続ける。
「本当に優しい人ですねえ。心配になるくらい」
「へ?優しい?…あの…僕が?」
「はい。詐欺にあわないかなって思うくらいに。初対面の相手をそんな風に心配するなんて…それだけでもう誠実な人だと思いますよ」
「そんなこと初めて言われた。だらしないとかクズだとか、それなら散々言われてるけど」
思いもよらない評価を受けて、拍子抜けしてしまった。
知らぬうちに張っていた肩を緩め、僕は少し恰好を崩す。
その子は横座りをしたまま、始終のんびりとしている。
出会った頃のカチコチに緊張していた姿はどこへやら。徐々に打ち解けてきたのか、その子は大分肩の力が抜けてきているようだった。
「確かに腹が減っては戦は出来ないし、同情するより金をくれという言葉はもっともだし」
「う、うん」
そんな切実な格言があったっけか。初めて聞いたソレに、少し気圧される。
「そうやって親身に声をかけてもらえただけで、私は満たされたように感じますよ」
にこりと、穏やかに笑い。柔い声色で、まるで諭すように語られた。
腹の足しにはならない、物資には変わらない。けれど少なくとも、心は満たされたのだと語ったその子は、確かに大人びすぎている。中身は子供ではないのだろう。
…うーん。でもまあ、そうやって思えるのって余裕あるからこそのことなんだけどねえ。衣食足りて礼節を知るともいうし、貧すれば鈍するともいう。
追い詰められるとヒトはそうなりがちなのだと、古くからある言葉が物語っている。
そもそも、追いつめられていようといなかろうとだ。
僕なりの誠意…「全部正直に告白する」という行為は、非難される類のもので、快く思われないだろうと予想していたんたけど。見事に外れてしまった。
「じゃあどうするの?きみ、何かあてはあるの?」
「ないですけど…今後どうするかっていっても…それはあなたに頼ることではないんじゃないかなって…」
いつの間にか当事者よりも、こっちの方が慌ててる。尋ねてみても、その子はあっさりと返すだけだった。
「出来たら道を教えてもらえたら嬉しいです。私、どこに何があるのか全然わからなくて」
「いや、それくらいはお安い御用だけど…」
この状況下で、僕という助けてくれるかもしれなかった舟をはねのけられるこの子は、随分強かだ。それとも箱入娘か何かか。無知なのだろうか。
道もわからない、明日もわからないでいるときに、カモがネギ背負ってきてやってきたというのに、それに縋らないとは。
実際縋られたって応えることは出来ないんだけど、出来る限りの援助はしようと思ってた。
生きるにあたって必要な知識も、地理だって当然教えようと考えてたのだ。時間が許す限りは、出し惜しないのに。
「僕を恨まないの?」
「恨む…?なんで」
「なんでって」
その子は何を言ってるのか分からない、とでも言いたげに首を傾げていた。
なんでそんな不思議そうにしてるのか、それこそ分からない。
ピッと指を一本立てて、僕は改めて状況を説明した。
「まず、きみは望まれた子。望まれてここにいる子。」
「は、はい…そうなんですね…」
「誰かがここで欲しがった」
ここで二本立てる。その子の視線は僕の指を律儀に追っていた。
「…はい…」
「それは僕なのかもしれない」
「かも」
「僕じゃないかもしれないけど。でも、僕は本当ならきみの面倒みる度量はあるのに、それでも手間だから見捨てるって言った」
「はい」
「それでも恨まない?助けてほしかったって思わない?」
「…助けてほしかったなぁと思ったとしても、恨みはしません」
なんだ、よかった。それを聞いて何故か少し安堵する。こっちこそ心配になるくらいさっぱりしているから、どれだけ割り切りいい子なんだとびっくりしてたけど。
出来れば助けてほしいという心細さはあったらしいと胸を撫で下ろした。
「望まれたとか…やっぱりよく分からない話ですけど、それでも恨みません。…私は死んだか、死にかけてる状態みたいで…」
「うん、たぶんそう」
「そうなった原因は、ただの事故なんです。あなたのせいでそうなったんじゃない。…凄く悲しいし、怖いし、悔しいけど」
死に近づいた瞬間を思い出したのか、一瞬だけその子の顔が曇る。
けれど、すぐに顔を上げて、曇りを拭い去った。
その瞳には、嘘偽りはない。
「"今"の事には、全然関係がない事ですから。特別とか、可哀想な子とか、色々言われても…それもきっと、あなたがそんなに誠実になる理由にはなりませんよ」
言い放ったその声は、晴れ渡った空のように綺麗で、淀みがない。迷いがない。
だからこそ、僕の心には反対に迷いが生まれてしまうのだ。
思わず胸を抑えて眉を寄せた。
「……良心の呵責」
「…はい?」
「きみがそうやって人に対して誠実であるほど、僕なりの誠実も形無しになってくっていうか…」
「……ええと」
「つまり普通に胸が痛い」
その子は僕が頭を抱えだしたのを見て、どうしたらいいのか分からない、と言ったように困り顔をしていた。そりゃそうだろう。
「これ見捨てたらクズどころの話じゃないよね」
理解のある言葉をかけてしまった。それだけでもやってしまったなーって感じだったのに。
こういうやり取りして、それでもバイバイするって。
全てに情けかけていたらやってられないというのは、当然分かっている。この子が心配するのもっともだ。
僕だって、会うヒト全員にこんな優しさ振りまいてる訳じゃない。少なくとも女の子限定の親切だ。
けれど、ここまで深い所までいちいち気にかけた事は一度もない。
僕が遊んだ女の子は、多くの場合は皆自立していた。
贈り物ななんかはしょっちゅうしても、相手の人生まで考えないし、生活の保障とか出来ないし。
相手の人生を背負う決意が出来るくらいなら、こんなに何股もかけてないだろう。
相手がこう物分りよく言ってくれている以上、悩むのも、罪悪感を抱くのも、ただの自己満足でしかない。
「面倒をみてあげるか否か」なんて発想に至る事自体、結局クズな自分が情けなく耐えられないだけ。
詰まる所、自分本位なのだ。
…別に僕、自分のこといいヤツだなんて思ったことなかったけど、改めてダメな野郎だなって思う。
「…そうは言っても…」
──この子の事を同情している。かわいそうだと思ってる。特別な子だと思ってる。
見れば見る程、目を凝らしてみるほどそれは浮彫になって、なんて魅力的なんだろうかと再確認できる。
けれど、長い間を生きてきた僕にとっては、沢山出会って見送ってきた中のただ一人にすぎない訳で。
どうしても僕は"たった一人に惹かれる"ということが出来ない性質らしい。
こんな稀有な子に出会ってもコレなんだから、僕の女の子好きって一生治らないだろうなと理解した。
骨の髄まで染み込んだ移り気だ。
未来の自分が見えるぞ。きっとひっきりなしに手を出して、ひっきりなしに引っぱたかれているに違いない。
「うーーーーん」
「…あの、そんなに深刻にならなくても…」
「なるなる凄くなる」
「本当に優しいというか…義理堅い人ですねえ…」
「違うちがう。こういうのクズっていうか自分本位っていうか、自己満っていうんだよ。全然義理じゃない」
「は、はあ…」
「……………うん、決めた」
「あ、そうですか」
なんだかよかったですねぇと、他人事のように発言をしているその子に決意をこめて言う。
「きみ、僕の弟子にするね」
「えっ」
突然投げかけられた言葉を受け、困惑したその子に向け、もう一度ピッと指先を向けた。
「他人の人生に責任とか持てないし、妻帯者にもなれる気しないけど、弟子の面倒くらいは見れるよ」
「……はあ、あの…いや…何故そんな事を…?なにがどうして?」
面倒を見れない、と切り捨てられた直後に弟子にして面倒を見ると言われる。
手のひらを返されて、さぞかし困惑している事だろう。手に取るようにこの子の当惑ぶりが分かる。
「僕が弟子に教える最初の一つはコレ」
オロオロと困っている様子を横目に入れながら、一言投げかける。
「きみの師匠は結構ろくでもないやつだよ」
言い切ると、難しい顔して押し黙って。凄ーーーく長考したあと。
「……………あの、そもそもあなたは…普段何をしてる人なんですか?」
弟子と言われましても…と困り果てた顔をみせた。それはもっともな疑問だと思いつつも、まず引っかかるのはそこなのかなぁとも思った。
なんか……なんていうの?うん、独特な子だなぁ。
1.if─誠意と対話
誠意ってなんだろう。実直って何?
言葉の意味は当然理解している。けれど、その本質は、考えても僕には分かりきれない。
なぜならば。
「……と、いう訳で」
僕は多分、誠実なヒトとは正反対なやつだからだ。
女の子は大好きだ。自分で言うのもアレだけど、尽くす方だと思う。ただ、たった一人に一途にはなれない。二股も三股もかける。
本当に誠実と呼ばれるようなやつは、僕みたいに定期的に平手打ちを食わされたりしない。
きっとただ一人だけを見て、わき目を振る事なんてないんだろう。
──でも僕にはそんなの無理。自分というものをわかってる。ごめんねーと心中で謝りはすれど、心から負い目に思ったことはない。開き直ってしまってるのだから、我ながら性質が悪い。
ただ、気を持たせるようなことは言った事はないし、君だけだよなんて言って騙した事もない。誠実ではないけど、ある意味最初から最後まで正直ではあったはずだ。
だったら僕というモノの最大限の誠意の発揮の仕方というのは、こういうことではないかと思った。
「僕はきみのこと、面倒見切れないと思う」
今朝まで考え続けていたことを、目覚めたその子に濁すことなく話をした。
言葉なんか選ばず、現状を包み隠さずに。
これが僕なりの誠意だった。
うんうんと相槌を打ちながら、時折質問も入り混ぜながら。その子は静かに聞いていた。
「そうでしょうね」
聞き終わり、口を開いたその子は。予想に反して柔らかい表情を浮かべていた。
…というより、明らかに苦笑している。思っていた反応とは違いすぎて、思わず目を瞬かせた。
その子は僕の困惑には気が付いていないようで、苦笑を湛えたままその先を続ける。
「本当に優しい人ですねえ。心配になるくらい」
「へ?優しい?…あの…僕が?」
「はい。詐欺にあわないかなって思うくらいに。初対面の相手をそんな風に心配するなんて…それだけでもう誠実な人だと思いますよ」
「そんなこと初めて言われた。だらしないとかクズだとか、それなら散々言われてるけど」
思いもよらない評価を受けて、拍子抜けしてしまった。
知らぬうちに張っていた肩を緩め、僕は少し恰好を崩す。
その子は横座りをしたまま、始終のんびりとしている。
出会った頃のカチコチに緊張していた姿はどこへやら。徐々に打ち解けてきたのか、その子は大分肩の力が抜けてきているようだった。
「確かに腹が減っては戦は出来ないし、同情するより金をくれという言葉はもっともだし」
「う、うん」
そんな切実な格言があったっけか。初めて聞いたソレに、少し気圧される。
「そうやって親身に声をかけてもらえただけで、私は満たされたように感じますよ」
にこりと、穏やかに笑い。柔い声色で、まるで諭すように語られた。
腹の足しにはならない、物資には変わらない。けれど少なくとも、心は満たされたのだと語ったその子は、確かに大人びすぎている。中身は子供ではないのだろう。
…うーん。でもまあ、そうやって思えるのって余裕あるからこそのことなんだけどねえ。衣食足りて礼節を知るともいうし、貧すれば鈍するともいう。
追い詰められるとヒトはそうなりがちなのだと、古くからある言葉が物語っている。
そもそも、追いつめられていようといなかろうとだ。
僕なりの誠意…「全部正直に告白する」という行為は、非難される類のもので、快く思われないだろうと予想していたんたけど。見事に外れてしまった。
「じゃあどうするの?きみ、何かあてはあるの?」
「ないですけど…今後どうするかっていっても…それはあなたに頼ることではないんじゃないかなって…」
いつの間にか当事者よりも、こっちの方が慌ててる。尋ねてみても、その子はあっさりと返すだけだった。
「出来たら道を教えてもらえたら嬉しいです。私、どこに何があるのか全然わからなくて」
「いや、それくらいはお安い御用だけど…」
この状況下で、僕という助けてくれるかもしれなかった舟をはねのけられるこの子は、随分強かだ。それとも箱入娘か何かか。無知なのだろうか。
道もわからない、明日もわからないでいるときに、カモがネギ背負ってきてやってきたというのに、それに縋らないとは。
実際縋られたって応えることは出来ないんだけど、出来る限りの援助はしようと思ってた。
生きるにあたって必要な知識も、地理だって当然教えようと考えてたのだ。時間が許す限りは、出し惜しないのに。
「僕を恨まないの?」
「恨む…?なんで」
「なんでって」
その子は何を言ってるのか分からない、とでも言いたげに首を傾げていた。
なんでそんな不思議そうにしてるのか、それこそ分からない。
ピッと指を一本立てて、僕は改めて状況を説明した。
「まず、きみは望まれた子。望まれてここにいる子。」
「は、はい…そうなんですね…」
「誰かがここで欲しがった」
ここで二本立てる。その子の視線は僕の指を律儀に追っていた。
「…はい…」
「それは僕なのかもしれない」
「かも」
「僕じゃないかもしれないけど。でも、僕は本当ならきみの面倒みる度量はあるのに、それでも手間だから見捨てるって言った」
「はい」
「それでも恨まない?助けてほしかったって思わない?」
「…助けてほしかったなぁと思ったとしても、恨みはしません」
なんだ、よかった。それを聞いて何故か少し安堵する。こっちこそ心配になるくらいさっぱりしているから、どれだけ割り切りいい子なんだとびっくりしてたけど。
出来れば助けてほしいという心細さはあったらしいと胸を撫で下ろした。
「望まれたとか…やっぱりよく分からない話ですけど、それでも恨みません。…私は死んだか、死にかけてる状態みたいで…」
「うん、たぶんそう」
「そうなった原因は、ただの事故なんです。あなたのせいでそうなったんじゃない。…凄く悲しいし、怖いし、悔しいけど」
死に近づいた瞬間を思い出したのか、一瞬だけその子の顔が曇る。
けれど、すぐに顔を上げて、曇りを拭い去った。
その瞳には、嘘偽りはない。
「"今"の事には、全然関係がない事ですから。特別とか、可哀想な子とか、色々言われても…それもきっと、あなたがそんなに誠実になる理由にはなりませんよ」
言い放ったその声は、晴れ渡った空のように綺麗で、淀みがない。迷いがない。
だからこそ、僕の心には反対に迷いが生まれてしまうのだ。
思わず胸を抑えて眉を寄せた。
「……良心の呵責」
「…はい?」
「きみがそうやって人に対して誠実であるほど、僕なりの誠実も形無しになってくっていうか…」
「……ええと」
「つまり普通に胸が痛い」
その子は僕が頭を抱えだしたのを見て、どうしたらいいのか分からない、と言ったように困り顔をしていた。そりゃそうだろう。
「これ見捨てたらクズどころの話じゃないよね」
理解のある言葉をかけてしまった。それだけでもやってしまったなーって感じだったのに。
こういうやり取りして、それでもバイバイするって。
全てに情けかけていたらやってられないというのは、当然分かっている。この子が心配するのもっともだ。
僕だって、会うヒト全員にこんな優しさ振りまいてる訳じゃない。少なくとも女の子限定の親切だ。
けれど、ここまで深い所までいちいち気にかけた事は一度もない。
僕が遊んだ女の子は、多くの場合は皆自立していた。
贈り物ななんかはしょっちゅうしても、相手の人生まで考えないし、生活の保障とか出来ないし。
相手の人生を背負う決意が出来るくらいなら、こんなに何股もかけてないだろう。
相手がこう物分りよく言ってくれている以上、悩むのも、罪悪感を抱くのも、ただの自己満足でしかない。
「面倒をみてあげるか否か」なんて発想に至る事自体、結局クズな自分が情けなく耐えられないだけ。
詰まる所、自分本位なのだ。
…別に僕、自分のこといいヤツだなんて思ったことなかったけど、改めてダメな野郎だなって思う。
「…そうは言っても…」
──この子の事を同情している。かわいそうだと思ってる。特別な子だと思ってる。
見れば見る程、目を凝らしてみるほどそれは浮彫になって、なんて魅力的なんだろうかと再確認できる。
けれど、長い間を生きてきた僕にとっては、沢山出会って見送ってきた中のただ一人にすぎない訳で。
どうしても僕は"たった一人に惹かれる"ということが出来ない性質らしい。
こんな稀有な子に出会ってもコレなんだから、僕の女の子好きって一生治らないだろうなと理解した。
骨の髄まで染み込んだ移り気だ。
未来の自分が見えるぞ。きっとひっきりなしに手を出して、ひっきりなしに引っぱたかれているに違いない。
「うーーーーん」
「…あの、そんなに深刻にならなくても…」
「なるなる凄くなる」
「本当に優しいというか…義理堅い人ですねえ…」
「違うちがう。こういうのクズっていうか自分本位っていうか、自己満っていうんだよ。全然義理じゃない」
「は、はあ…」
「……………うん、決めた」
「あ、そうですか」
なんだかよかったですねぇと、他人事のように発言をしているその子に決意をこめて言う。
「きみ、僕の弟子にするね」
「えっ」
突然投げかけられた言葉を受け、困惑したその子に向け、もう一度ピッと指先を向けた。
「他人の人生に責任とか持てないし、妻帯者にもなれる気しないけど、弟子の面倒くらいは見れるよ」
「……はあ、あの…いや…何故そんな事を…?なにがどうして?」
面倒を見れない、と切り捨てられた直後に弟子にして面倒を見ると言われる。
手のひらを返されて、さぞかし困惑している事だろう。手に取るようにこの子の当惑ぶりが分かる。
「僕が弟子に教える最初の一つはコレ」
オロオロと困っている様子を横目に入れながら、一言投げかける。
「きみの師匠は結構ろくでもないやつだよ」
言い切ると、難しい顔して押し黙って。凄ーーーく長考したあと。
「……………あの、そもそもあなたは…普段何をしてる人なんですか?」
弟子と言われましても…と困り果てた顔をみせた。それはもっともな疑問だと思いつつも、まず引っかかるのはそこなのかなぁとも思った。
なんか……なんていうの?うん、独特な子だなぁ。