第二十一話
2.あの世─教え所
教え処とやらが出来たらしい。
もちろんそこは子供が通う場所で、現代でいえば小学校低学年くらいの子たちが集まっていた。
外見年齢がそうというだけで、中身は小学生じゃなかったりするけど、あの世的に数えれば私達はまだまだひよっ子だったのだ。
ということで、ひよっこの私達は立派な大人になるべく勉強をしに通う。全ては世のため人のため一番は自分のため。
知ってることと言えば自然界を生き延びる術と村社会の中で生きるための処世術くらいの子供が、算数などを教わることが出来るようになるなんて、本当に画期的なことだった。
登校初日、出かける前に鬼灯くんとこんな話をした。
「あなた、好かれやすい性質みたいですね」
…何に?と咄嗟に聞き返すことが出来ず、あまりに脈絡のない話題を受けてただぼんやりした顔をしていた。
分かっていないということが見て取れる私のふやけ具合にふうとため息ひとつこぼして、彼は説明する。
「神にですよ」
「ええ何それ」
「覚えがあるでしょう」
「そんな恐れ多い覚えはありません」
彼は何喰わぬ顔で朝からよく分からない話を始めた。そんなに烏滸がましい、図に乗ったようなことはとてもじゃないけれど考えられないし、考えたこともなかった。
嫌われてるなんて被害妄想をしたことはないけど好かれてるなんて驕りもない。
神様ハーレムなんて単語を頭の中で思い浮かべたのは今が初めてだった。罰が当たってしまいそうな思考回路だ。
「今までだってそれぞれ汗水働いて別行動を取ってましたけど、」
「うん」
人間だった頃に比べたら一緒にいる時間がずっと減っている。
山だけが行動範囲だけじゃなくなり、生活するために出来ること、他にもあらゆる面での選択肢が圧倒的に増えて来たため、それぞれに適した行動を取るうちお互いの生活リズムがバラけていた。
「これから同じ所に通うようになって、また別行動が増えるかもしれませんね」
「ん?逆じゃないの?同じ空間にいることになるんだし…」
「子供が集まる教え処ですよ?」
「えー…何の関係があるの…?」
「自然と女は女、男は男でつるむようになるでしょう」
「ああ、そういうことかあ…」
男女でグループ作ってイエーイというノリを作るのは小学生(仮)には難しいのかな。
あーまあそうなのかもなあ…。
休み時間には蹴しゃれこうべに興じる男子と華やかなトークに興じる女子にわかれるか。
気まぐれに共に戯れることがあったとしても、毎日はむりだ。
実際に私が蓬くん烏頭くん鬼灯くんの仲間にいれてもらっていても、どこかついていけていないなという感覚がずっとある。
疎外されているのとは違うけど、向こうもやっぱり良くも悪くも私を女の子扱いしてくる。
女子は男子の有り余る体力と悪ノリに、男子は女子の高いテンションと感性についていけない。
異性の感性と一個人のスタイルに合わせようと努力できるようになるのは彼らがもっと大人びた頃の話なんだろう。
「ということで、一人になるならなるで自衛した方がいいでしょうね。絡まれやすい性質な上、対抗する力もないんですから」
「うん、子供の登校だしねえ。防犯は大事だね」
「…はあ」
かみ合うようでかみ合わない返答が帰ってきて面倒臭くなったのか、鬼灯くんは適当な相槌を打っていた。
防犯ブザーなんてないし発声練習でもしておいた方がいいのかな。
鈴をリンリン鳴らして登校するのはどうだろうと考えたけど、それは熊避けだとしばらく遅れてから気づいた。
音がなるものってこの時代少ない上に、そもそも鈴をみかけたことだってない。
「でも、楽しみだね」
「まあ。学べることはよいことです」
「ね。本当に通えるようになってよかった」
「あなたは勉強ができるかできない性質か。見物ですね」
「…人並みだと思うけどなあ」
前の人生での積みたてがなければ成績は並みだっただろうけど。
ズルをしている私は、手抜きしなければきっとクラスで相当優秀な成績を収めるんだろうなあ。
…それかもしかしたら、鬼灯くんの次にいい成績を取るようになる気がする。
経験があった所でこの回転の速い頭には勝てる気がしない。
私の頭の地の理解力は並みで、鬼灯くんは地が桁外れているんだろうとわかる。
登校初日も終えて、開校してからしばらくが経ち、なんとか場の空気感にも慣れてきた。
現代の統率がとれ段取りがきっちりしている学校とは違う、もう少し自由な感じの空間。
そんな教え処は中々楽しい。
算数も改めてやってみると案外楽しい。もう既に習得してる範囲でも、淡々と解いていくのは逆に新鮮で好きだった。
「先生おはようございます」
「おう、おはよう」
「お香ちゃんおはよう」
「あら、おはよう」
「えへへ」
扉を潜り室内に入り、前方から向かってきた先生とすれ違いながら挨拶をすると、
一拍遅れてお香ちゃんも登校してきたことに気が付き振りかえる。
ここで出来た新しいお友達だった。
女友だちが出来るなんて初めてのことで、顔を合わせるたびに嬉しくてにこにこ笑ってしまう。
こちらが笑うと、にっこりと自然に笑みを返してくれる優しくて綺麗な子だった。
「今日、晴れてよかったね」
「今日は外が多いものね」
「そろそろ梅雨になるしその辺心配だね」
座学以外にも外で運動することも多くあった。
黄泉は現世よりも空が薄暗く枯れ木や岩場が多く、明暗がハッキリしない印象を抱く。
しかし空はほんのり青いし雨は降るし、現世と同じように四季に対する配慮が必要だった。
「あっなあアレ…」
「わぁ…朝からついてるな俺達」
ヒソヒソとした囁きと、視線が複数向かうのを感じた。
お香ちゃんは特にそれに気が付いていないようで、もしかしてサバイバル的生活をしていた私には周囲へ注意を向けるクセがついてしまっているのかもしれないと気づく。
潜められている会話と控えめな視線は、お香ちゃんに向かっていた。
彼女はまだ幼いながらとても穏やかで、しかし華やかな容姿をしていて男子人気が高かった。
何をせずともその存在感から周囲から視線を奪う人というのはどこにでも存在していて、
この教え処でみんなの心(主に男子)を奪っているのはお香ちゃん。
そして女子人気があるのはなんとあの鬼灯くんだった。
男子はお香ちゃんの穏やかで優しい内面的な部分も含めてちやほやしているのだけど、鬼灯くんはなんというか…破天荒な所があるので主に容姿を持て囃されている感じ。
この時代で「観賞用」「目の保養」なんていう言葉がひそひそと水面下で飛び交うようになるなんて思わなくて、困惑を隠せない。
目で楽しむ耳で楽しむなどの区分は大昔からあったんだろうけど、単なる芸術鑑賞とはちょっと種が違う。
「あっ鬼灯くん…」
「今日もカッコいい」
「きれい…」
外で蓬くん烏頭くんと合流してから、三人揃って屋内へ入ってきた。
鬼灯くんにうっとりと見とれているる女の子たちを眺める。ずっと近くにいると分からなかったけど、確かに改めて観察していると目鼻立ちが整っているなと理解できる。
私含め平凡な子らに囲まれると二人の平均値を上回った美は浮き彫りになった。
「あの先生トラップ全然ひっかかんないなあ〜つまんねえ」
「びっくりするとこちょっと見てみたいね」
「じゃフェイントでもかけますか」
すると、提案した鬼灯くんはどこかから蹴しゃれこうべに使う骸骨を持ち出してきた。
それを片手にしながら三人で、そのうちクラスの他の男子も交えて、アレコレと先生に悪戯をしかけるため作戦を練り出した。
女の子たちはその悪巧みのくだらなさや、時々しでかす残念な行動などは目を瞑って、外見を褒め称える。
パーツも頭脳も人格も生活力も手先も全て完璧な人なんてこの世に作られないのかもしれないと時々思う。
聞こえてくる作戦会議の中で、刃物の使用が提案された時点でひえっとなったけど、ここ黄泉では先生を殺りとげようとする発想、無邪気な残酷さが抵抗感なく飛び交されている。
こんな悪戯しかけて怒られはするんだろうけど、法に抵触することはないし、深刻な問題沙汰にはならないんだろう。そもそも法という概念がまだここにはない。
フルで能力を発揮できる場によりによって破天荒な彼がやってきてしまった。これからの未来が不安で楽しみだ。
「みんな今日も元気ねえ」
「元気っちゃ元気だね…」
悪戯を仕掛けた結果、案の定怒り狂った先生に絞られている男子達をみてお香ちゃんは微笑ましそうにして、私は苦笑する。
「その労力を学業に仕え学業に!」と叫ぶ先生の主張はもっともで、こういう駆け引きに情熱をかけられるかかけられないか、そういうところにもやはり男子と女子との違いが出て来るなと感じた。
烏頭くんなんて枝に糞を突き刺して先生の所に嬉々としながら持って行って、女の子たちはきゃーっと悲鳴を上げながら遠巻きにする。
今日も元気で平和でくだらなくて何よりだなあと心から思える。
骸骨をドアに挟んでフェイントに使用して、入室すると頭上からガシャンと刃物が落される仕組みを作る子供たちの図。それを穏やで微笑ましい姿とはまだ私には思えないんだけど、追って私が順応していくしかないんだろうなあ…いちいち反応していたら暮らせない。
「怒られました」
「そりゃあそうだよ。わかってたでしょ」
「はい」
目が合うと、近づいてきた彼はけろりとした顔で報告してきた。
分かっていてもやめられない好奇心と対抗心があるんだろうなあ。
いつも軽くいなしてしまう先生を上回りたいというか。
ゲンコツ落とされても折れる兆しがないんだから子供は無邪気で強い。
「今度は確実に殺ろう」
「…私先生がいなくなるの嫌だよ」
「私も嫌です」
「我儘言わないで、どっちかにしよ」
言ってから失言に気がいた。どっちか(殺す方)を選ばれたらやっぱり困っちゃう。
こんな発言をしている姿さえ、心を無にするか遠巻きにみていれば「目の保養」になるのだから、美形は得だなそしてなんだか残念だなと思った。
何か残念がっている心境が目から伝わったのか、つま先を軽く脛にぶつけた。
やっぱり残念な子だなあ…。
2.あの世─教え所
教え処とやらが出来たらしい。
もちろんそこは子供が通う場所で、現代でいえば小学校低学年くらいの子たちが集まっていた。
外見年齢がそうというだけで、中身は小学生じゃなかったりするけど、あの世的に数えれば私達はまだまだひよっ子だったのだ。
ということで、ひよっこの私達は立派な大人になるべく勉強をしに通う。全ては世のため人のため一番は自分のため。
知ってることと言えば自然界を生き延びる術と村社会の中で生きるための処世術くらいの子供が、算数などを教わることが出来るようになるなんて、本当に画期的なことだった。
登校初日、出かける前に鬼灯くんとこんな話をした。
「あなた、好かれやすい性質みたいですね」
…何に?と咄嗟に聞き返すことが出来ず、あまりに脈絡のない話題を受けてただぼんやりした顔をしていた。
分かっていないということが見て取れる私のふやけ具合にふうとため息ひとつこぼして、彼は説明する。
「神にですよ」
「ええ何それ」
「覚えがあるでしょう」
「そんな恐れ多い覚えはありません」
彼は何喰わぬ顔で朝からよく分からない話を始めた。そんなに烏滸がましい、図に乗ったようなことはとてもじゃないけれど考えられないし、考えたこともなかった。
嫌われてるなんて被害妄想をしたことはないけど好かれてるなんて驕りもない。
神様ハーレムなんて単語を頭の中で思い浮かべたのは今が初めてだった。罰が当たってしまいそうな思考回路だ。
「今までだってそれぞれ汗水働いて別行動を取ってましたけど、」
「うん」
人間だった頃に比べたら一緒にいる時間がずっと減っている。
山だけが行動範囲だけじゃなくなり、生活するために出来ること、他にもあらゆる面での選択肢が圧倒的に増えて来たため、それぞれに適した行動を取るうちお互いの生活リズムがバラけていた。
「これから同じ所に通うようになって、また別行動が増えるかもしれませんね」
「ん?逆じゃないの?同じ空間にいることになるんだし…」
「子供が集まる教え処ですよ?」
「えー…何の関係があるの…?」
「自然と女は女、男は男でつるむようになるでしょう」
「ああ、そういうことかあ…」
男女でグループ作ってイエーイというノリを作るのは小学生(仮)には難しいのかな。
あーまあそうなのかもなあ…。
休み時間には蹴しゃれこうべに興じる男子と華やかなトークに興じる女子にわかれるか。
気まぐれに共に戯れることがあったとしても、毎日はむりだ。
実際に私が蓬くん烏頭くん鬼灯くんの仲間にいれてもらっていても、どこかついていけていないなという感覚がずっとある。
疎外されているのとは違うけど、向こうもやっぱり良くも悪くも私を女の子扱いしてくる。
女子は男子の有り余る体力と悪ノリに、男子は女子の高いテンションと感性についていけない。
異性の感性と一個人のスタイルに合わせようと努力できるようになるのは彼らがもっと大人びた頃の話なんだろう。
「ということで、一人になるならなるで自衛した方がいいでしょうね。絡まれやすい性質な上、対抗する力もないんですから」
「うん、子供の登校だしねえ。防犯は大事だね」
「…はあ」
かみ合うようでかみ合わない返答が帰ってきて面倒臭くなったのか、鬼灯くんは適当な相槌を打っていた。
防犯ブザーなんてないし発声練習でもしておいた方がいいのかな。
鈴をリンリン鳴らして登校するのはどうだろうと考えたけど、それは熊避けだとしばらく遅れてから気づいた。
音がなるものってこの時代少ない上に、そもそも鈴をみかけたことだってない。
「でも、楽しみだね」
「まあ。学べることはよいことです」
「ね。本当に通えるようになってよかった」
「あなたは勉強ができるかできない性質か。見物ですね」
「…人並みだと思うけどなあ」
前の人生での積みたてがなければ成績は並みだっただろうけど。
ズルをしている私は、手抜きしなければきっとクラスで相当優秀な成績を収めるんだろうなあ。
…それかもしかしたら、鬼灯くんの次にいい成績を取るようになる気がする。
経験があった所でこの回転の速い頭には勝てる気がしない。
私の頭の地の理解力は並みで、鬼灯くんは地が桁外れているんだろうとわかる。
登校初日も終えて、開校してからしばらくが経ち、なんとか場の空気感にも慣れてきた。
現代の統率がとれ段取りがきっちりしている学校とは違う、もう少し自由な感じの空間。
そんな教え処は中々楽しい。
算数も改めてやってみると案外楽しい。もう既に習得してる範囲でも、淡々と解いていくのは逆に新鮮で好きだった。
「先生おはようございます」
「おう、おはよう」
「お香ちゃんおはよう」
「あら、おはよう」
「えへへ」
扉を潜り室内に入り、前方から向かってきた先生とすれ違いながら挨拶をすると、
一拍遅れてお香ちゃんも登校してきたことに気が付き振りかえる。
ここで出来た新しいお友達だった。
女友だちが出来るなんて初めてのことで、顔を合わせるたびに嬉しくてにこにこ笑ってしまう。
こちらが笑うと、にっこりと自然に笑みを返してくれる優しくて綺麗な子だった。
「今日、晴れてよかったね」
「今日は外が多いものね」
「そろそろ梅雨になるしその辺心配だね」
座学以外にも外で運動することも多くあった。
黄泉は現世よりも空が薄暗く枯れ木や岩場が多く、明暗がハッキリしない印象を抱く。
しかし空はほんのり青いし雨は降るし、現世と同じように四季に対する配慮が必要だった。
「あっなあアレ…」
「わぁ…朝からついてるな俺達」
ヒソヒソとした囁きと、視線が複数向かうのを感じた。
お香ちゃんは特にそれに気が付いていないようで、もしかしてサバイバル的生活をしていた私には周囲へ注意を向けるクセがついてしまっているのかもしれないと気づく。
潜められている会話と控えめな視線は、お香ちゃんに向かっていた。
彼女はまだ幼いながらとても穏やかで、しかし華やかな容姿をしていて男子人気が高かった。
何をせずともその存在感から周囲から視線を奪う人というのはどこにでも存在していて、
この教え処でみんなの心(主に男子)を奪っているのはお香ちゃん。
そして女子人気があるのはなんとあの鬼灯くんだった。
男子はお香ちゃんの穏やかで優しい内面的な部分も含めてちやほやしているのだけど、鬼灯くんはなんというか…破天荒な所があるので主に容姿を持て囃されている感じ。
この時代で「観賞用」「目の保養」なんていう言葉がひそひそと水面下で飛び交うようになるなんて思わなくて、困惑を隠せない。
目で楽しむ耳で楽しむなどの区分は大昔からあったんだろうけど、単なる芸術鑑賞とはちょっと種が違う。
「あっ鬼灯くん…」
「今日もカッコいい」
「きれい…」
外で蓬くん烏頭くんと合流してから、三人揃って屋内へ入ってきた。
鬼灯くんにうっとりと見とれているる女の子たちを眺める。ずっと近くにいると分からなかったけど、確かに改めて観察していると目鼻立ちが整っているなと理解できる。
私含め平凡な子らに囲まれると二人の平均値を上回った美は浮き彫りになった。
「あの先生トラップ全然ひっかかんないなあ〜つまんねえ」
「びっくりするとこちょっと見てみたいね」
「じゃフェイントでもかけますか」
すると、提案した鬼灯くんはどこかから蹴しゃれこうべに使う骸骨を持ち出してきた。
それを片手にしながら三人で、そのうちクラスの他の男子も交えて、アレコレと先生に悪戯をしかけるため作戦を練り出した。
女の子たちはその悪巧みのくだらなさや、時々しでかす残念な行動などは目を瞑って、外見を褒め称える。
パーツも頭脳も人格も生活力も手先も全て完璧な人なんてこの世に作られないのかもしれないと時々思う。
聞こえてくる作戦会議の中で、刃物の使用が提案された時点でひえっとなったけど、ここ黄泉では先生を殺りとげようとする発想、無邪気な残酷さが抵抗感なく飛び交されている。
こんな悪戯しかけて怒られはするんだろうけど、法に抵触することはないし、深刻な問題沙汰にはならないんだろう。そもそも法という概念がまだここにはない。
フルで能力を発揮できる場によりによって破天荒な彼がやってきてしまった。これからの未来が不安で楽しみだ。
「みんな今日も元気ねえ」
「元気っちゃ元気だね…」
悪戯を仕掛けた結果、案の定怒り狂った先生に絞られている男子達をみてお香ちゃんは微笑ましそうにして、私は苦笑する。
「その労力を学業に仕え学業に!」と叫ぶ先生の主張はもっともで、こういう駆け引きに情熱をかけられるかかけられないか、そういうところにもやはり男子と女子との違いが出て来るなと感じた。
烏頭くんなんて枝に糞を突き刺して先生の所に嬉々としながら持って行って、女の子たちはきゃーっと悲鳴を上げながら遠巻きにする。
今日も元気で平和でくだらなくて何よりだなあと心から思える。
骸骨をドアに挟んでフェイントに使用して、入室すると頭上からガシャンと刃物が落される仕組みを作る子供たちの図。それを穏やで微笑ましい姿とはまだ私には思えないんだけど、追って私が順応していくしかないんだろうなあ…いちいち反応していたら暮らせない。
「怒られました」
「そりゃあそうだよ。わかってたでしょ」
「はい」
目が合うと、近づいてきた彼はけろりとした顔で報告してきた。
分かっていてもやめられない好奇心と対抗心があるんだろうなあ。
いつも軽くいなしてしまう先生を上回りたいというか。
ゲンコツ落とされても折れる兆しがないんだから子供は無邪気で強い。
「今度は確実に殺ろう」
「…私先生がいなくなるの嫌だよ」
「私も嫌です」
「我儘言わないで、どっちかにしよ」
言ってから失言に気がいた。どっちか(殺す方)を選ばれたらやっぱり困っちゃう。
こんな発言をしている姿さえ、心を無にするか遠巻きにみていれば「目の保養」になるのだから、美形は得だなそしてなんだか残念だなと思った。
何か残念がっている心境が目から伝わったのか、つま先を軽く脛にぶつけた。
やっぱり残念な子だなあ…。