第十九話
2.あの世─詰問
何度目かもわからない持病の症状が悪化して、布団の上で蹲っていた私に鬼灯くんが渋い顔をしながら問いを投げた。
だんだん吐き気もおさまってきて顔色もマシになり、受け答えも出来るようになった頃だったので私も顔をあげて聞く姿勢に入る。
「あなたのソレ、なんの病気ですか」
「…ん?」
「明日死ぬんですか。今日死ぬんですか?」
「…もう死んだよね?」
「もう死んだのに、生身じゃない鬼なのに病気?」
「…じゃあ気の持ちようなのかなあ。そういえば、鬼も死ぬって話きいたね」
鬼も無理が祟ると死ぬというか、消滅することがあるらしいという話を小耳に挟んだ。
死ぬと消滅は違うものなんだろうか。不老不死ではないという事実に安堵したことは記憶に新しい。
私は死にたくないけれど、そんな大それたものは望んでいなかったのだ。
しかしこれに関してはウイルスでもなんでもなく、ただ神経が参ってるせいなので私の言ってることはあながち間違いではない。
「時差・空間酔いしてるんです」なんて本当を言うこともできず曖昧に濁す。
「病は気からといいますけど」
「うん」
「あなたの気を悪くさせてるのは何ですか、誰なんですか」
「……うーん…」
ここでなんて言おうか、なんて言えばいいかなと少し考えた。
このままさっきのようにあやふやに誤魔化し続けてもいいけど、きっと頭がいいから何か察するだろうし、例え今この瞬間に気づかなかったとしても何かの拍子に嘘を見抜いてしまうんだろうなあと今から鮮明に予想できた。
それはとても恐ろしい。犯人は鬼灯…みたいななんか怖い展開になるのやだ。
事件が起こる前に未然に防ごうという名目を掲げ、私は困り笑いをしながら話す。
「えーと…ごめんね、言いたくないな」
隠していることがあるとバレるより、変に隠して後バレする方が厄介だよねと思い断わった。
そもそも鬼灯くんとはプライベートな心境を筒抜けにさせるようなベタベタした仲ではなかったので、いつものなんでもない会話の延長線にあるような、
ふとわいて出た疑問に答えなかった所できっと気にしないで流してくれるだろう。
何を隠そうが隠さまいがお互いどうになることもないだろうなと高をくくっていた。
「……私に対していいたくない?」
「ううん、誰にも言いたくないなあ」
誰に言っても理解されない…なんてことはない。逆に絶対に理解してくれるだろうと知ってる。
こんな場所にいる人たちだからこそ、人間から鬼になった鬼灯くんだからこそ、そういう非現実的なことも起こり得るだろうと理解してくれるはず。
それでもあまり言いたくはなかった。
説明が難しいし普通に気まずいし、もごもごする理由を数えたらキリがない。
けれどその中でも一番大きな理由をあげるとするなら…
顔も体格も生活も価値観もまったく違っている、既に割り切り今の自分とは切り離してしまった一回目の自分をあまり知られたくなかったから。
もしも話して、みんなが前の私と今の私を同一視してみようとしたらならば、私も同じように意識せざるを得ない。
嫌でも前の私と今の私が重なって感じられて、もっともっと神経が参って具合が悪くなるなんていいこと無しな状態になる。
「…」
「…あ、あのー…?」
こんな風に隠されたらまあ普通は嫌な気するよねえ、くらいのことは考えていた。
──でも、"鬼灯くんなら"どう感じるだろうかということまでは考えなかった。
手を伸ばしかけ、宙をさまよわせてから再び引っ込ませた彼を見て少し違和感を感じる。自分の手のひらに視線を落として無言で考え事を始めていて、なんだか声をかけ辛くてどうしたらいいかなあと居心地悪くしていると、
ゆるりと視線をあげた鬼灯くんが「…許しません」と短く断言した。
……えー…何を許さないんだろう?普通に隠し事なんて許さないって意味でいいのかな。
鬼灯くん的にそこまで怒るような出来事だったのか。あ、仲間外れ感が寂しかったとか?
意外と幼いところあるのかもなあなんて思考をあちこち彷徨わせていた私は、この時選択を間違えたことに気づかなかった。
──考えるべきはだいたいの人にとっての普通ではなくて、鬼灯くんという個人の受け止め方なんだと思い至ることがなかったのだった。
ムスッと不機嫌顔をしている鬼灯くんをみて、悪いことをしてしまったなあと少し気落ちする。
言いたくないことって誰にでも一つか二つくらいはあると思う。それを隠すことが不義理になると分かったとして、言うか言わないかは理屈で選択することはできない。
言った方がいいと分かっていても感情が拒む。
この告白が未来を大きく左右する…という局面でなら軽く言えたかもしれないけど、それが世間話の範疇中ならば答えたくないなと思った。
心の中でごめんねーと手を合わせつつ彼の頭をそっと撫でてみた。振り払われなかったのを見て、心底怒らせた訳じゃないんだと悟ってホッとする。
「そろそろ収穫できるかなあ」
冷えてきたため、布団を深々とかぶり直しながら考えた。
目指せその日暮らしからの脱却。
小規模ながら農作に手をだし初めてからもうしばらくが経つ。トラブルなくなんとか今日までやってこれた。
食い扶持は徹底して自分らで稼がなければならない、行き場のない子供を養ってくれる大人もいないし施設も存在しない、やはり自活が全てだ。
…それにしても、本当に冷え込んできたなあ。
また人も草木も凍てつかせる冬が近づいてきた。マシになってきたとはいえ具合を崩し床に伏してる今、すこしの冷気でもへこたれてしまう。
「あのー鬼灯くん…」
「…」
「付かぬことをお伺いしますがー」
「絶対に嫌だ」
「そこをなんとか」
ずるずると四つん這いになりながら彼に近寄っていく。
彼は聞く前から何を要求しようとしているのか察していたようだ。
冬になると抱きつき魔と化しがちな私の思考パターンなんてお見通しなんだろう。
距離を取ろうと後退するも私は確実ににじり寄っていき飛びついた。
「えへへ、やっぱりあったかい」
「…」
鬼灯君を横向きに押し倒し抱きつくも、可哀そうな抱き枕にされることに慣れている彼は溜息一つで許してくれた。
…許しては、くれたけれど。
「…これって、どうなんでしょうね」
「なにが?」
「サクヤ姫とニニギ様にお会いしたでしょう。彼ら二人は夫婦で、母であり父あり、子を産みました」
「うん」
「男女がこんな風に密着してやることと言えば、子種を植えつけることなんじゃないですか」
「…………え!?」
「私とあなたとの間に恋情が芽生えたなんて露ほども思わないし、子がほしいとも思いません」
「そ、それはそうだよ」
この幼さで子供を産むなんてあまりにも現実味がない。現実にあり得ないことだとは言わないけど、私達二人の間に限っては絶対に起こり得ないことだ。
「あなたは私の家族ですか、きょうだいですか、友人ですか、好き同士ですか?
もしも私があなたに何か爪痕を残してやりたいと思ったとして、きっとソレはそういうことではないはずなんです」
「……」
絶句する以外に何もできない。出て来る言葉もなく喉は張り付いて乾ききっていた。
鬼灯くんがとても賢く道理をわかってる子供だとは知っているけど、それとは裏腹に自分の気持ちにも他人の気持ちにも少し疎い所もあるのを知っている。
自分のことさえ他人事のように淡々と考察して、その強い興味から自分と誰かの関係性がどういうものなのかを探ってる。
母も父も恋しくなくて、そこにあるのは興味だけだと言っていた。
だからこの幼い子には似つかわしくない言葉たちも、意味深な下心から出たものではなく、ただ不思議に思って疑問を口にしただけなのだろうと予想できた。
──私は鬼灯くんのことを家族のように思っている。でもそれはこの子には軽々しく言っていい言葉じゃないなと自制していた。
いつか言える日が来るといいなと思っていたけど、それを言うべきは今なんじゃないかとなんとなく思った。
「…鬼灯くん、あのね」
「はい」
「前に私には理想があるって言ったよね」
「はい、言っていましたね」
乾いた喉からその先を紡ぎ出す。
「…──私は、あなたと家族みたいになりたかったの」
「…それがあなたの理想?」
「そう」
この子の中で区切りがついたら、彼が親という存在を異物感なく消化できるようになったらと勝手に考えていた。しかし彼の疑問があちこち行きかい飛び火して、
そんな突飛なところに考えが行き着くなら、それは違うんじゃないかなとストップをかけた方がいいんじゃないかと思う。
彼の本心、心の底の部分にあるもの全部を伺い知れる訳じゃないけど、
私達の間にあるものが夫婦の間にあるような愛情ではないことだけは断言できるんだから、だったら出し惜しみしない方がいいだろう。
私は私の中にあるとっておきの理想を引き合いに出して説明する。
「その…そういうことをする夫婦も家族だけど、きょうだいだって家族だし、血の繋がりがなくても家族にはなれるし、…なんていうか、そういうのは繋がりで証明されるものじゃなくて、そう思えるか思えないかの話なんじゃないかな」
「…あなたは、私のことを家族のように認識してるんですよね」
「うん、そうなの。鬼灯くんは怒るかな。…でも鬼灯くんも家族みたいって感じてくれたらちょっと嬉しいな」
赤の他人であろうと、お互いがそう思い合えるなら「家族だ」と自称してもいいんじゃないかと私は思ってる。
そんな緩くて適当な捉え方もあるのかと知って、極端な思考に落ち着かないでくれたらいいなと考える。
頭が回り行動力もあるので、極端な答えにたどり着いてしまったら極端なことをやらかしそうで焦っていた。
これから長い時間を生きてもっともっと見聞を広めて、その頃には私の言った理想なんて忘れて自分なりの「家族」「ともだち」「恋人」、色んな理想の形を見つけ出してくれたらいいなと。
今は偏らないようにと私なりの緩い理想を差し出してストッパーにする。それが中身には大人成分が混じっている私が子供に対してできる精一杯のことだった。
「なるほど」
なるほどと言うその呟きが、その納得が、いい方向に向かえばいいなとぐったりとしながら願った。
2.あの世─詰問
何度目かもわからない持病の症状が悪化して、布団の上で蹲っていた私に鬼灯くんが渋い顔をしながら問いを投げた。
だんだん吐き気もおさまってきて顔色もマシになり、受け答えも出来るようになった頃だったので私も顔をあげて聞く姿勢に入る。
「あなたのソレ、なんの病気ですか」
「…ん?」
「明日死ぬんですか。今日死ぬんですか?」
「…もう死んだよね?」
「もう死んだのに、生身じゃない鬼なのに病気?」
「…じゃあ気の持ちようなのかなあ。そういえば、鬼も死ぬって話きいたね」
鬼も無理が祟ると死ぬというか、消滅することがあるらしいという話を小耳に挟んだ。
死ぬと消滅は違うものなんだろうか。不老不死ではないという事実に安堵したことは記憶に新しい。
私は死にたくないけれど、そんな大それたものは望んでいなかったのだ。
しかしこれに関してはウイルスでもなんでもなく、ただ神経が参ってるせいなので私の言ってることはあながち間違いではない。
「時差・空間酔いしてるんです」なんて本当を言うこともできず曖昧に濁す。
「病は気からといいますけど」
「うん」
「あなたの気を悪くさせてるのは何ですか、誰なんですか」
「……うーん…」
ここでなんて言おうか、なんて言えばいいかなと少し考えた。
このままさっきのようにあやふやに誤魔化し続けてもいいけど、きっと頭がいいから何か察するだろうし、例え今この瞬間に気づかなかったとしても何かの拍子に嘘を見抜いてしまうんだろうなあと今から鮮明に予想できた。
それはとても恐ろしい。犯人は鬼灯…みたいななんか怖い展開になるのやだ。
事件が起こる前に未然に防ごうという名目を掲げ、私は困り笑いをしながら話す。
「えーと…ごめんね、言いたくないな」
隠していることがあるとバレるより、変に隠して後バレする方が厄介だよねと思い断わった。
そもそも鬼灯くんとはプライベートな心境を筒抜けにさせるようなベタベタした仲ではなかったので、いつものなんでもない会話の延長線にあるような、
ふとわいて出た疑問に答えなかった所できっと気にしないで流してくれるだろう。
何を隠そうが隠さまいがお互いどうになることもないだろうなと高をくくっていた。
「……私に対していいたくない?」
「ううん、誰にも言いたくないなあ」
誰に言っても理解されない…なんてことはない。逆に絶対に理解してくれるだろうと知ってる。
こんな場所にいる人たちだからこそ、人間から鬼になった鬼灯くんだからこそ、そういう非現実的なことも起こり得るだろうと理解してくれるはず。
それでもあまり言いたくはなかった。
説明が難しいし普通に気まずいし、もごもごする理由を数えたらキリがない。
けれどその中でも一番大きな理由をあげるとするなら…
顔も体格も生活も価値観もまったく違っている、既に割り切り今の自分とは切り離してしまった一回目の自分をあまり知られたくなかったから。
もしも話して、みんなが前の私と今の私を同一視してみようとしたらならば、私も同じように意識せざるを得ない。
嫌でも前の私と今の私が重なって感じられて、もっともっと神経が参って具合が悪くなるなんていいこと無しな状態になる。
「…」
「…あ、あのー…?」
こんな風に隠されたらまあ普通は嫌な気するよねえ、くらいのことは考えていた。
──でも、"鬼灯くんなら"どう感じるだろうかということまでは考えなかった。
手を伸ばしかけ、宙をさまよわせてから再び引っ込ませた彼を見て少し違和感を感じる。自分の手のひらに視線を落として無言で考え事を始めていて、なんだか声をかけ辛くてどうしたらいいかなあと居心地悪くしていると、
ゆるりと視線をあげた鬼灯くんが「…許しません」と短く断言した。
……えー…何を許さないんだろう?普通に隠し事なんて許さないって意味でいいのかな。
鬼灯くん的にそこまで怒るような出来事だったのか。あ、仲間外れ感が寂しかったとか?
意外と幼いところあるのかもなあなんて思考をあちこち彷徨わせていた私は、この時選択を間違えたことに気づかなかった。
──考えるべきはだいたいの人にとっての普通ではなくて、鬼灯くんという個人の受け止め方なんだと思い至ることがなかったのだった。
ムスッと不機嫌顔をしている鬼灯くんをみて、悪いことをしてしまったなあと少し気落ちする。
言いたくないことって誰にでも一つか二つくらいはあると思う。それを隠すことが不義理になると分かったとして、言うか言わないかは理屈で選択することはできない。
言った方がいいと分かっていても感情が拒む。
この告白が未来を大きく左右する…という局面でなら軽く言えたかもしれないけど、それが世間話の範疇中ならば答えたくないなと思った。
心の中でごめんねーと手を合わせつつ彼の頭をそっと撫でてみた。振り払われなかったのを見て、心底怒らせた訳じゃないんだと悟ってホッとする。
「そろそろ収穫できるかなあ」
冷えてきたため、布団を深々とかぶり直しながら考えた。
目指せその日暮らしからの脱却。
小規模ながら農作に手をだし初めてからもうしばらくが経つ。トラブルなくなんとか今日までやってこれた。
食い扶持は徹底して自分らで稼がなければならない、行き場のない子供を養ってくれる大人もいないし施設も存在しない、やはり自活が全てだ。
…それにしても、本当に冷え込んできたなあ。
また人も草木も凍てつかせる冬が近づいてきた。マシになってきたとはいえ具合を崩し床に伏してる今、すこしの冷気でもへこたれてしまう。
「あのー鬼灯くん…」
「…」
「付かぬことをお伺いしますがー」
「絶対に嫌だ」
「そこをなんとか」
ずるずると四つん這いになりながら彼に近寄っていく。
彼は聞く前から何を要求しようとしているのか察していたようだ。
冬になると抱きつき魔と化しがちな私の思考パターンなんてお見通しなんだろう。
距離を取ろうと後退するも私は確実ににじり寄っていき飛びついた。
「えへへ、やっぱりあったかい」
「…」
鬼灯君を横向きに押し倒し抱きつくも、可哀そうな抱き枕にされることに慣れている彼は溜息一つで許してくれた。
…許しては、くれたけれど。
「…これって、どうなんでしょうね」
「なにが?」
「サクヤ姫とニニギ様にお会いしたでしょう。彼ら二人は夫婦で、母であり父あり、子を産みました」
「うん」
「男女がこんな風に密着してやることと言えば、子種を植えつけることなんじゃないですか」
「…………え!?」
「私とあなたとの間に恋情が芽生えたなんて露ほども思わないし、子がほしいとも思いません」
「そ、それはそうだよ」
この幼さで子供を産むなんてあまりにも現実味がない。現実にあり得ないことだとは言わないけど、私達二人の間に限っては絶対に起こり得ないことだ。
「あなたは私の家族ですか、きょうだいですか、友人ですか、好き同士ですか?
もしも私があなたに何か爪痕を残してやりたいと思ったとして、きっとソレはそういうことではないはずなんです」
「……」
絶句する以外に何もできない。出て来る言葉もなく喉は張り付いて乾ききっていた。
鬼灯くんがとても賢く道理をわかってる子供だとは知っているけど、それとは裏腹に自分の気持ちにも他人の気持ちにも少し疎い所もあるのを知っている。
自分のことさえ他人事のように淡々と考察して、その強い興味から自分と誰かの関係性がどういうものなのかを探ってる。
母も父も恋しくなくて、そこにあるのは興味だけだと言っていた。
だからこの幼い子には似つかわしくない言葉たちも、意味深な下心から出たものではなく、ただ不思議に思って疑問を口にしただけなのだろうと予想できた。
──私は鬼灯くんのことを家族のように思っている。でもそれはこの子には軽々しく言っていい言葉じゃないなと自制していた。
いつか言える日が来るといいなと思っていたけど、それを言うべきは今なんじゃないかとなんとなく思った。
「…鬼灯くん、あのね」
「はい」
「前に私には理想があるって言ったよね」
「はい、言っていましたね」
乾いた喉からその先を紡ぎ出す。
「…──私は、あなたと家族みたいになりたかったの」
「…それがあなたの理想?」
「そう」
この子の中で区切りがついたら、彼が親という存在を異物感なく消化できるようになったらと勝手に考えていた。しかし彼の疑問があちこち行きかい飛び火して、
そんな突飛なところに考えが行き着くなら、それは違うんじゃないかなとストップをかけた方がいいんじゃないかと思う。
彼の本心、心の底の部分にあるもの全部を伺い知れる訳じゃないけど、
私達の間にあるものが夫婦の間にあるような愛情ではないことだけは断言できるんだから、だったら出し惜しみしない方がいいだろう。
私は私の中にあるとっておきの理想を引き合いに出して説明する。
「その…そういうことをする夫婦も家族だけど、きょうだいだって家族だし、血の繋がりがなくても家族にはなれるし、…なんていうか、そういうのは繋がりで証明されるものじゃなくて、そう思えるか思えないかの話なんじゃないかな」
「…あなたは、私のことを家族のように認識してるんですよね」
「うん、そうなの。鬼灯くんは怒るかな。…でも鬼灯くんも家族みたいって感じてくれたらちょっと嬉しいな」
赤の他人であろうと、お互いがそう思い合えるなら「家族だ」と自称してもいいんじゃないかと私は思ってる。
そんな緩くて適当な捉え方もあるのかと知って、極端な思考に落ち着かないでくれたらいいなと考える。
頭が回り行動力もあるので、極端な答えにたどり着いてしまったら極端なことをやらかしそうで焦っていた。
これから長い時間を生きてもっともっと見聞を広めて、その頃には私の言った理想なんて忘れて自分なりの「家族」「ともだち」「恋人」、色んな理想の形を見つけ出してくれたらいいなと。
今は偏らないようにと私なりの緩い理想を差し出してストッパーにする。それが中身には大人成分が混じっている私が子供に対してできる精一杯のことだった。
「なるほど」
なるほどと言うその呟きが、その納得が、いい方向に向かえばいいなとぐったりとしながら願った。